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ハラール製品保証法で変わる?日本企業のインドネシア進出

Groovy Japanを運営するジェイ・ラインのマレーシア法人JL Connect Malaysiaでイスラム市場進出支援に携わっている橋本です。

インドネシアハラール認証の有効期間延長(2年⇒4年)が、大手ネットメディアでも報道されました。今回の措置は、2014年のハラール製品保証法施行から始まった、インドネシアハラール認証制度のアップグレードの一環です。今回のコラムでは、ハラール製品保証法の施行による、インドネシア市場への影響と日本企業のインドネシア進出について考えてみます。

スーパー店頭で販売される日本製品

結論:ハラール認証取得と非ハラール商品表示義務が影響大

最も大きな影響を与えるのは、ハラール認証取得と非ハラール商品表示義務と考えられます。ハラール認証の根幹である認証基準(HAS23000:1 & 2)には変更がないため、インドネシア市場のハラール商品に求められる要件等については、大きな変更はありません。

今後も流通できる非ハラール商品

この政令の施行によって、現在市場にある商品が流通できなくなったり、非ハラール商品の流通ができなくなるわけではありません。インドネシア共和国政府規則 2019 年第 31 号ハラール製品保証法の実施規則には、次のように定められています。

(1)ハラール認証取得が必要な範囲(第2条)

1.インドネシア領域内に搬入、流通、および売買される製品は、ハラール認証を取得する必要がある

2.(イスラム法の戒律で)禁止された原料を用いた製品は、ハラール認証義務から除外される

3.ハラール認証義務から除外された製品は、それを明示する必要がある

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/05/f38ce657f216be81.html

非ハラール商品に関してはハラール認証義務から除外され、非ハラール製品である旨の明示が義務化されます。日本から輸出を行っている企業にとっては、一安心というところでしょうか。インドネシア人口の多くをイスラム教徒が占めていますが、歴史的に他宗教民族と共存しています。国全体を考えてみれば、妥当な実施規則です。今後も大きな変更はないと予想されます。

ハラール製品保証法で何が変ったのか?

2014年のハラール製品保証法の主旨は、インドネシアハラール認証制度を、現在のグローバル化された市場に対応させるためのアップグレードでしょう。そのアップグレードには、ハラール認証制度の政府管理、認証制度運営の効率化、消費者保護政策の強化が含まれています。

1.ハラール認証制度の政府管理

最も重要な変更点は、インドネシア政府自体が、ハラール認証制度管理に関与する体制を整えたことです。日本を含めた多くの国のハラール認証制度は、民間機関(NGOや営利企業)によって運用されています。つまり、あくまでも民間によって運営されている私的な認証と捉えることができます。

ハラール認証の政府管理は、インドネシアハラール認証制度の消費者からの信頼性を大きく向上させることが期待されます。なぜなら、インドネシア政府が、ハラール認証の有効性を担保することになるからです。その為に、宗教省の元にBPJPHが設立されました。

2.ハラール商品認証取得と非ハラール商品表示義務

ハラール商品の認証取得と非ハラール商品の表示が、2024年より順次義務づけられます。未認証のハラールな商品には認証を取得する義務が、ハラールではない原材料を用いた製品にはハラールでないと事を明示することが求められます(Tidak Halal)。これ制度の主旨は、ムスリム消費者保護の強化だと考えられます。

マレーシアハラール認証規定では、認証取得はあくまで企業の任意であり、非ハラールであることの表示も義務付けられていません。インドネシアの今回の変更は、マレーシアよりも踏み込んだムスリム消費者保護を目指していると言えるでしょう。

3.零細・中小企業へのハラール認証の拡大

ハラール製品保証組織団体のBHJPHは、ゼロ及び低リスク製品を生産している国内零細・中小企業には、自己申告によるハラール認証申請を求めています。また、年間売上が10億ルピア以下の企業に対しては、ハラール認証申請料を免除します。

マレーシアを例にとれば、ハラール認証普及のハードルは零細・中小企業です。なぜなら、ハラール認証を維持するためには、それなりのコストがかかるからです。インドネシア政府は、法令だけでなく様々な施策によって、ハラール認証の拡大を支援しています。

インドネシア市場に多くのハラール認証商品が登場することにより、インドネシア国内消費者は、今まで以上に店頭でハラール認証商品を目にすることになるでしょう。その結果、ハラール認証への理解や認知が高まり、商品やサービスへのハラール性の要求が高まる事が予想されます。ハラール製品補償法は、製造だけでなくマーケティング視点からも注目すべきです。

日本企業のインドネシア進出に与える影響

次に、ハラール製品保証法が日本企業のインドネシア進出に与える影響について考えてみます。

1.ビジネススキームへの影響は限定的

ハラール製品保証法の施行では、ハラール認証制度の根幹である認証基準については変更されていません。そのため、ビジネススキームの根幹(製品製造、流通、提供等)には、大きな影響はないでしょう。

認証期間変更の影響は限定的

ニュースとなっている4年間への認証期間延長による影響は、さらに限定的です。なぜなら、期間延長が認められる製品は、原材料に変更がない商品に限られるからです。

インドネシアハラール認証基準によって求められる、生産現場や提供店舗等での定期的内部監査と報告義務や原材料を変更する際の事前許可等は、ハラール製品保証法でも変更はありません。日本国内ハラール認証を活用したハラール証明書の取得においても、発行認証団体の認証基準に従った監査や報告を行わなければなりません。このように、既に市場参入している商品に関しては、製造、流通、販売への影響は、非常に限定的でしょう。

2.日本企業のハラール認証取得申請

申請方法等の事務手続きは、大きく効率化されています。インドネシアハラール認証取得を検討中あるいは申請中の企業は、申請手続きの詳細の確認をすぐに行うべきでしょう。

日本から製品を輸出する場合

日本製品の輸入に関するハラール証明書の取得について、インドネシアのハラール認証機関LPPOM MUIに直接確認を行いました。基本的には、BPJPHに認証されている日本国内ハラール認証を取得した上で、BPJPHにハラール証明書を申請するようにとのことでした。LPPOM MUIの日本窓口であった企業との契約が2021年1月で終了しています。日本国内から申請に際しては、事前にLPPOM MUIに直接問い合わせることをお勧めします。

インドネシア国内で生産する場合

インドネシア国内で製造している製品やサービスについては、LPPOM MUIに問い合わせのうえ、現地コンサルティング会社に協力を依頼することが、最も効率的でしょう。

具体的な申請方法や必要書類等は、申請手順の変更、新しい法令、新しいFatowa(イスラム法に基づく決定)等によって変更される可能性があります。申請準備に入る際には、最新情報を確認することが必須です。

3.ハラール商品認証取得と非ハラール商品表示義務

現時点で日本企業のインドネシア進出への影響が最も大きいポイントは、ハラール商品の認証取得と非ハラール製品の表示義務でしょう。

対応期限対象物・サービス
2024年10月17日       飲食料品
2026年10月17日化粧品、化学薬品、遺伝子組み換え製品、梱包材、衣料品、帽子、アクセサリー、家庭用品、ムスリムの礼拝用品文具、事務機器、伝統薬品、サプリメント、医療機器Aクラス(低リスク製品)
2029年10月17日一般薬品、医療機器Bクラス(低中リスク製品)
2034年10月17日処方箋薬品、医療機器Cクラス(高中リスク製品)
別途規定生物的製品(ワクチンを含む)、医療機器Dクラス(高リスク製品)
ハラール製品保証法による運用スケジュール案 (https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/05/f38ce657f216be81.html)

最も対応期限が早い飲食料品では、3年後の2024年には認証取得と非ハラール商品への表示義務が開始されます。対象製品をインドネシア市場で展開されている企業は、早めの対応が必要です。動物性原材料を使用している製品は、特に注意が必要です。

4.マーケティングへの影響

上で述べたハラール認証取得義務と非ハラール商品の表示義務は、インドネシア市場でのマーケティングにも大きな影響を与えそうです。

ムスリム消費者のハラール商品選好が高まる。

市場に提供される商品全てにハラール表示が行われることにより、インドネシア人消費者のハラール認証の認知は高まるでしょう。その結果、ムスリム消費者の商品選好において、ハラール性をより重視する傾向になる可能性があります。

販売・提供場所への影響

インドネシアハラール認証基準では、ハラール商品のnajis(不浄)との交差汚染を避けるため、ハラール認証商品と非ハラール商品の保存場所や販売場所を明確に分ける事を求めています。現状、一般的なインドネシアやマレーシアのスーパー等では、明らかにハラーム(ハラールでない)である商品以外は、混在して展示・販売されています。

ハラール製品保証法により市場にある全ての製品のハラール性が明確になると、インドネシアやマレーシアの大手スーパー等に見られる「Non-Halal」コーナーのように、ハラール認証取得商品とそうでない商品が別の場所で販売・提供されることも予想されます。そのため、非ハラール商品や何らかの理由でハラール証明書が取得できていない商品の場合には、プロモーション、パッケージ、販売先等のマーケティング戦術に影響が出ることも想定されます。

ハラール製品保証法に関して日本企業が今対応すべきこと

今回のコラムで検討したように、インドネシアのハラール製品保証法が本格的に施行されることにより、インドネシア市場でのビジネスに影響が出ることが予想されます。

既にインドネシア市場へ進出されている企業は、それぞれの商品特性を考慮して、ハラール認証取得あるいは非ハラール商品表示を行なう事が必要です。

インドネシア市場進出を検討中の企業は、現時点でハラール認証取得を急ぐ必要はないでしょう。商品によっては、認証取得あるいは非ハラール表示義務が開始されるまでには、5年以上の時間があります。ハラール認証を維持するためには、それなりのコストがかかります。まずは市場調査や販売戦略を十分検討し、成功確率を高めることを優先すべきでしょう。

参考

BPJP
LPPOM MUI
LPPOM MUI REQUIREMENT OF HALAL CERTIFICATION: HALAL ASSURANCE SYSTEM CRITERIA HAS23000:1 2012
LPPOM MUI REQUIREMENT OF HALAL CERTIFICATION: POLICIES AND PROCEDURES HAS23000:2 2012
Indonesia to revise Halal Product Guarantee Law in October to speed up certification process

JL Connect Malaysia SDN BHD / ディレクター 橋本 哲史
Groovy Japan運営会社のマレーシア法人JL Connect (M) SDN BHDのディレクターと、JAKIM戦略パートナー企業のコンサルタントを兼務。
2010年に日本果物のドバイ輸出事業に参画したことからイスラム市場との係わりが始まり、その後マレーシアとインドネシアを起点に現地企業家との事業を行う。訪日ムスリムツアー企画と現地営業、日本と東南アジア間でのビジネスマッチングやマーケティング等を経験する。

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