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グローバルハラール旅行市場の最新トレンド

Salam Groovy Japanを運営するジェイ・ラインのマレーシア法人JL Connect Malaysiaでイスラム市場進出支援に携わっている橋本です。

COVID-19のパンデミックによって、メッカ巡礼の受入れを停止したサウジアラビアは約3兆円、東京オリンピックへのハラール食品輸出を目論んでいたマレーシアは約30億円の機会を損失したと言われています。ハラール旅行産業は、今回のパンデミックで大打撃を受けましたが、2023年には需要が2019年レベルに回復すると予測されています。

関西国際空港にあるハラール認証うどん店

ハラール旅行市場の現状

2019年に海外旅行を楽しんだムスリムツーリストは、約2億人(2019年)にのぼり、彼らが旅行中に消費した金額は、約21兆4千億円(1940億米ドル)。この金額は、世界の旅行者が使った旅行費用の約12%を占めるに至っていました。

コロナ禍の2020年には、その消費金額が約70%減少し、中小事業者割合が80%を占める旅行業界では、約半数が事業を停止したと予測されており、その結果、約1億9700万人が職を失ったと予測されています。このように疲弊したグローバルハラール旅行市場の売上規模が2019年水準に戻るのは、2023年頃と予測されているのです。

人気の旅行先

上位5位のムスリム旅行者受入国

旅行先海外からのムスリム旅行者数
トルコ約640万人
アラブ首長国連邦約620万人
ロシア約560万人
マレーシア約530万人
フランス約500万人

人気の旅行先は、イスラム教徒人口の多い国が上位を占めています。旅行中にもイスラムの戒律を守りたいムスリム旅行者にとって、食事やお祈りの不安の少ない事が、重要な観光地選択要因となっている事がうかがわれます。フランスが上位に食い込んでいるのは、地理的に中東やアフリカと近い事もありますが、ムスリム旅行者を惹きつける強いブランド力を持っていることがその要因と考えられます。

海外旅行支出

上位5ヵ国の海外旅行支出金額

海外旅行支出金額
サウジアラビア約2兆6,798億円(243億米ドル)
アラブ首長国連邦約1兆7,200億円(172億米ドル)
カタール約1兆5,660億円(142億米ドル)
クエート約1兆4,336億円(130億米ドル)
インドネシア約1兆2,351億円(112億米ドル)

海外旅行支出金額に着目すると、中東地域が突出しています。中東地域は中間層以上の人口比率が高くないことから、1人あたりの消費金額が大きいと考えられます。そのため、インドネシアやマレーシア等のアジア地域からのムスリム旅行者とは、旅行に求めるニーズが異なる事が予測されます。

Z世代の理想のハラール旅行

旅行に対する最も大きなニーズは、普段の生活を離れた非日常体験を楽しむことでしょう。そのため、非常に個人的な嗜好が強く反映されます。ここでは、数値的なデータから離れ、個人へのインタビューから、ハラール旅行市場について検討します。

理想の旅行

5ヵ国のZ世代の理想の旅行

居住国理想の旅行
インドネシア観光地や食事に不安を感じない。
UAEそれは誰と旅行するかに依る。
インド家族と風光明媚な場所へのドライブ
イギリス家族や友人と一緒にリゾートや都市を楽しむ。
歴史に興味ある人と世界遺産に行く。
アメリカリラックス&デトックス。宗教的義務を妨げない旅。

お気に入りの旅行先

5ヵ国のZ世代のお気に入りの旅行先

居住国お気に入りの旅行先
インドネシア国内ではジョグジャカルタ。そこかしこにモスクがあり、食事はハラールで安い。
UAE特に好きな旅行先はない。ドバイにはすべてがある。
インドトルコ 豊かな文化とイスラムの歴史がある。
イギリストロント、ニューヨーク、クアラルンプール、ロンドン、
メッカ、パリ、マディーナ、ローマ、イスタンブール、ドバイ
アメリカ自然を楽しむ。歴史的な場所や有名な場所。年に一度のメッカ巡礼。

旅行支出傾向

5ヵ国のZ世代の旅行支出傾向

居住国ホテル代
(1泊1部屋)
旅行支出傾向
インドネシア3,500
~22,000円
海外旅行なら、ムスリムフレンドリーホテルにより支払っても良い。
UAE9,000
~18,000円
ほとんど外出しているので、宿泊にはお金をかけない。
ムスリムフレンドリーホテルかどうかは気にしていない。
インド重要なのは、清潔さとモスクの状況。ハラール認証ホテルならもっとお金を払う。
イギリスハラールの食事があるとわかっている観光地や都市を訪れる。
アメリカ5,500
~17,000円
ホテルがハラールかどうかは気にしない。
実際にどれだけハラールフレンドリーな場所があるのだろうか。

海外旅行で困る事

5ヵ国のZ世代の海外旅行での困る事

居住国海外旅行での困る事
インドネシアお祈りの場所。ヒジャーブ着用が禁止されている国があること。
UAEお祈りの場所
インドハラール食品。お祈りの場所。清潔さ。
イギリスハラールフード。公衆トイレでのハンドシャワー。
アメリカ非イスラム諸国に住んでいるので、不便には慣れている。清潔なバスルームが最も困る。

ホテル予約アプリに必要な情報

5ヵ国のZ世代が求めるホテル予約アプリに必要な情報

居住国ホテル予約アプリに必要な情報
インドネシアキブラ。周辺のハラールレストラン。
ハラール食品を提供しているムスリムフレンドリーホテルとムスリムフレンドリーな観光地の情報
UAEグーグルマップをお勧め。新しい観光地やハラールレストランを発見できる。
インド周辺のモスクやハラールレストラン。ホテルの部屋の情報。
イギリスムスリムが求める清潔さを満たしているか。周囲のモスクやハラール食品のお店の情報。
アメリカGPSで周囲のモスク、ハラールレストラン等のムスリムが必要とする情報を提供。

ムスリム旅行者のニーズ

このインタビュー結果は、非常に限られた意見であることに間違いありません。一方で、異なる居住国のムスリムに行われていることから、ムスリム旅行者の共通ニーズや属性による海外旅行ニーズの違いを読み取ることも可能です。

居住国の状況

5ヵ国のZ世代の居住国の状況

居住国一人当たりの名目GDPムスリム人口比
インドネシア4,048米ドル87.2%
UAE37,750米ドル76.0%
インド1,965米ドル14.2%
イギリス41,030米ドル6.3%
アメリカ63,415米ドル1.1%

ムスリム旅行者の共通ニーズ

5人のZ世代ムスリムに共通する海外旅行ニーズは、ムスリム旅行者共通のニーズと捉えることが可能でしょう。

  • お祈りの場所
  • ハラールフード
  • 清潔
  • ホテル宿泊代金

ハラールの実践に重要なお祈りや食事に関する心配がない事が、海外旅行に共通するニーズであることが再確認できます。興味深いのは、想定している一泊のホテル代には居住国によって大きな差が見られなかった事です。この意味を結論づける事は、このデータからだけでは難しいですが、ムスリムインバウンドマーケティングの際には、知っておくべきでしょう。

居住国により異なるニーズ

海外旅行の目的や体験は、居住国によって異なっていました。非常に興味深いのは、アメリカのムスリムが、リラックスやデトックス等をその目的として挙げ、同時に、海外旅行先がムスリムフレンドリーであるかどうかを重視していない点です。

この発言は、フランスが人気旅行地のトップ5に入っている事と共に、ムスリム旅行者を惹きつけるには、観光地のハラール(ムスリムフレンドリー)化だけでは十分ではない可能性を示唆しています。日本へのムスリムインバウンドのマーケティングを考える際には、非常に重要な視点といえるのではないでしょうか。

参考

Global Islamic Economy Report 2020
The Future of World Religions: Population Growth Projections, 2010-2050
JETRO

JL Connect Malaysia SDN BHD / ディレクター 橋本 哲史
Salam Groovy Japan運営会社のマレーシア法人JL Connect (M) SDN BHDのディレクターと、JAKIM戦略パートナー企業のコンサルタントを兼務。
2010年に日本果物のドバイ輸出事業に参画したことからイスラム市場との係わりが始まり、その後マレーシアとインドネシアを起点に現地企業家との事業を行う。訪日ムスリムツアー企画と現地営業、日本と東南アジア間でのビジネスマッチングやマーケティング等を経験する。

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