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【訪日観光客6,000万人時代】ムスリムインバウンド3つのポイント

Salam Groovy Japanを運営するジェイ・ラインのマレーシア法人JL Connect Malaysiaでイスラム市場進出支援に携わっている橋本です。

日本政府は、2030年に訪日観光客6,000万人を誘客する目標を掲げています。2021年初頭の日本政府観光局(JNTO)理事長はインタビューで、目標達成のために、ゴールデンルートから地方への分散化を図ると述べています。このような政府目標に沿って、ムスリムインバウンドではどのように取り組むべきなのか、ムスリム訪日観光客の視点から検討します。

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訪日観光客6,000万人達成のための施策

JNTOの清野理事長は訪日客6,000万人の実現のために、「外国人観光客をゴールデンルートから地方に分散させていく。そのために、地方の自然の魅力を発信し、国立公園のプロモーションだけでなく、スキー、ラフティング、ダイビング、サイクリングなどのスポーツアクティビティの魅力を発信していく」と述べています。

ムスリム観光客の特徴

日本政府やJNTOの今後の取り組みの方向性を受けたムスリムインバウンドの取り組みを考えるにあたり、まずは、訪日ムスリム観光客について検討します。

コロナ禍の前までの訪日ムスリム観光客の主流は、マレーシアやインドネシアからの中間層を中心としていました。また、ムスリムインバウンドへの取り組みが広く始まった当初から、ドバイ等からの中東超富裕層観光客をターゲットと考えてきました。

東南アジアからのムスリム観光客

マレーシアやインドネシアからの観光客には、ゴールデンルートが人気です。それが選ばれる要因として、次の3点が大きく影響していると考えられます。

  1. 旅行日程:1週間から長くて2週間程度である。
  2. 旅行スタイル:欧米旅行者と比較して、家族や友達、職場単位等のグループ旅行の比率が高い。
  3. 旅行回数:香港、台湾、中国等の旅行者と比較して、初めての訪日比率が高い。

初めての日本旅行で1週間程度の旅程となると、まずは典型的な日本を見てみたいという要望が高くなります。東京や大阪のような大都市、京都や飛騨高山等の伝統的場所、富士山のような大自然、アウトレットでの買い物等の要望すべてを1週間に収めようとすると、どうしてもゴールデンルートや大都市近郊に滞在となってしまいます。

中東からのムスリム観光客

中東からの訪日旅行客数は、東南アジア程多くはありません。その理由について、中東旅行会社や現地アラブ人との会話から考えてみると、次の2点が課題であると感じます。

  1. VISA取得:UAEを除いてVISA取得に時間がかかる。ヨルダンで商談した中堅旅行会社では、日本のVISA取得には1ヶ月程度の審査時間が必要となるため、なかなか勧められないと聞いたことがあります。
  2. プライバシー保護:中東富裕層の場合、プライバシー保護に気を使っています。日本への旅行では、それが十分にできないと考えられているようです。実際に日本に10年以上の滞在歴のあるドバイ在住のアラブ人は、日本の空港、ホテル、レストラン等の構造や運用方法では、他国と同等水準のプライバシー保護ができないと言っていました。

自身も富裕層であるその知人が、日本の旅行業者は富裕層の真のニーズをわかっていないと言っていたことが、強く記憶に残っています。

自然はムスリム観光客を魅了できるのか

JNTOでは、ゴールデンルート以外の地方への誘客において、地方の自然をアピールしていきたいとしています。訪日ムスリム観光客にとって、地方の自然は魅力的なのでしょうか。

日本の自然は魅力的

実際にマレーシアやインドネシアで旅行会社や友人達の話を総合すると、日本の自然の魅力は高いと感じます。雄大な富士山、雪の降る山村、澄み切った沖縄の海等の訪れたいという欲求は、けっして低くありません。特に、雪を見て、触って、遊んでみたいとの声は良く聞きます。また、緑の多い国から来たマレーシアやインドネシア人から見ても、日本のような急峻な山々の風景は美しく感じると言っています。

スポーツアクティビティは魅力的?

JNTOでは、地方の自然をアピールするために、様々なスポーツアクティビティ等の魅力を訴求していくとしています。白馬や富良野でのスキーツアーの成功等を、イメージしているのではないかと思われます。

マレーシア、インドネシア、中東の人々の日常生活をみると、欧米や日本のように運動習慣が根付いていないように見受けられます。スキーのようなウインタースポーツやサイクリングのような野外での運動量の多いスポーツは、1年中熱い地域ということもあり、広く普及しているようには見えません。短時間で体験してみるというニーズはありそうですが、滞在してスキーだけを楽しむ様なニーズは、まだまだ限定的と感じます。

ムスリムインバウンド 3つのポイント

日本のムスリムインバウンドでは、観光地のムスリムフレンドリー化とその状況のアピールに取り組んできました。その結果、多くの観光地が、基本的なムスリムフレンドリー化を達成しています。このような状況の中で、ゴールデンルート以外の次の目的地として選んでもらうためには、自然の訴求だけでは十分ではありません。

訪れる理由を提供する

まず必要なのは、訪れるべき理由を提供することです。例えば、「インスタで見たあの場所で写真を撮りシェアしたい」「あのアニメの舞台の地を実際に訪れてみたい」「ここでしかできない体験をしたい」等の、個人的欲求を喚起する理由を提供できれば、次の日本旅行では、絶対に外せない目的地として指名されるでしょう。

前回のコラムでもご紹介したグローバルハラール旅行市場動向に関する報告書によれば、Z世代の米国のムスリムは、観光地がムスリムフレンドリーであることに期待していません。欧米やUAEのムスリムは、旅行先での体験をより重視しています。

ムスリム旅行者個人に情報を届ける

他の観光地には無い訪れる理由を提供できても、実際に旅行をするムスリム観光客がそれを知らなければ選んでもらえません。かれらに確実に情報を届けるためには、継続的で効果的な情報発信が必須です。

実際に現地で訪日旅行を営業してみると、日本から発信されている観光情報の多くは、ほとんど現地に届いていません。現地のソーシャルメディアインフルエンサーやマスメディアでの露出が、最も効果的であると感じます。

旅程に組み込むための情報提供

マレーシアやインドネシアでは、海外旅行の計画段階から、身近の旅行代理店に相談することも多いのです。旅行代理店では、顧客の希望日程や予算から旅程を組みます。その際に、顧客から具体的観光地名やニーズを出さなければ、ゴールデンルートを組み込んだ定番旅行プランをお勧めすることになります。

特定の観光地をお勧めするためには、観光地自体の情報もさることながら、旅程に組み込むための情報が必須です。主要国際空港からの移動方法や1週間程度のサンプル旅程等の情報です。実際に現地の旅行代理店の方と話していると、このような情報が圧倒的に不足しています。そんため、ゴールデンルートや大都市をお勧めするしかないとも言っていました。

参考

訪日6000万人目標堅持 赤羽国交相「観光先進国」目指す
【2021新春インタビュー】清野 智・日本政府観光局(JNTO) 理事長に聞く
ビザ免除国・地域(短期滞在)
Global Islamic Economy Report 2020

JL Connect Malaysia SDN BHD / ディレクター 橋本 哲史
Salam Groovy Japan運営会社のマレーシア法人JL Connect (M) SDN BHDのディレクターと、JAKIM戦略パートナー企業のコンサルタントを兼務。
2010年に日本果物のドバイ輸出事業に参画したことからイスラム市場との係わりが始まり、その後マレーシアとインドネシアを起点に現地企業家との事業を行う。訪日ムスリムツアー企画と現地営業、日本と東南アジア間でのビジネスマッチングやマーケティング等を経験する。

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