ハラール産業におけるブロックチェーンの可能性
Salam Groovy Japanを運営するジェイ・ラインのマレーシア法人JL Connect Malaysiaでイスラム市場進出支援に携わっている橋本です。
グローバルハラール市場では、ビジネスのDX化が急速に進行しています。今回のパンデミック禍で伸びているフードデリバリーやイーコマースも、その流れの一つです。このトレンドの中で注目されているのが、ブロックチェーン技術の活用。この技術は、ハラール産業の最重要課題であるコンタミネーション防止に、有効活用できると考えられています。
ブロックチェーンとは?
日本ではブロックチェーン=ビットコインとして良く知られていますが、本来の意味は、ネットワークに接続した複数のコンピュータによってデータを共有する技術の事です。私達が日常使っているシステムでは、データを中央にあるサーバーで一元的に管理しています。この点が、従来のシステムとの相違点です。
パブリックブロックチェーンのアドバンテージ
従来のシステムと比較してブロックチェーン技術には、六つのアドバンテージがあります。
(1)取引データが暗号化されている
今さら聞けない「ブロックチェーン」とは何か?~その基本的なメカニズムと進化の方向を探る
(2)合意された過去の取引データの集合体がチェーン上に記録されている
(3)データの改ざんが難しい仕組みを持つ
(4)中央管理者がおらず、分散的に運用されている
(5)ネットワーク上の複数のコンピュータが取引データを確認・合意するために送受信する
(6)システムダウンが起こりにくい
コンタミネーションとトレーサビリティ
ハラール産業やハラール認証で最も重要な基礎概念は、コンタミネーション(異物混入)を防ぐことです。具体的には、生産や流通過程において、本来ハラールである商品とハラームな物質との接触を防ぎ、ハラームな物質によって商品やサービスが汚染されないようにすることです。
そのため、ハラール産業ではトレーサビリティ(追跡可能性)を重視しています。例えば、ハラール産業で最も大きなシェアを占める食品産業では、「farm to table (農場からテーブルまで)」を、サプライチェーンにおけるトレーサビリティの重要コンセプトとしています。理想的には、ムスリム消費者自らが消費する商品やサービスについて、どこで生産・製造され、どのような流通過程を経て、どこで販売されたのかについて、追跡を可能とすることです。
ハラール産業におけるブロックチェーンの必要性
ハラール産業では、原材料偽装のような不正や適切な保存が行われない等のケアレスミスによるコンタミネーションの発生が、長年にわたり問題とされてきました。日本の消費者にとっては、安全性に関わるコンタミネーション以外は大きな問題にはならないでしょう。しかしながらムスリム消費者にとっては、コンタミネーションの発生は、自らの宗教的実践に影響を及ぼす重大事件となるからです。
そのため、ブロックチェーンの改ざんが難しいというアドバンテージが、この技術が登場した当初から注目されてきました。従来の中央集権的サーバーでデータ管理を行うサプライチェーン管理システムでは、中央サーバーの管理権限者によってデータの書き換えが可能です。また、利用者側は、故意に書き換えられたかどうか知ることはできません。
ブロックチェーン技術を使えば、これを防ぐことができます。なぜなら、データはネットワークに接続した複数のコンピュータで共有して保持しているため、一台のコンピュータのみでデータ改ざんをすることが難しいからです。そのため、ハラールトレーサビリティシステムに、最適な技術と考えられています。
ブロックチェーン技術適応の課題点
このようにハラール産業と親和性が高いと考えられるブロックチェーン技術ですが、実際の組み込みにおいては課題が無いわけではありません。
既存システムからの移行
既に多くの企業(特に中堅以上)では、中央集権型サーバーによるサプライチェーン管理システムを導入済みです。このような企業がブロックチェーンを利用したシステムに移行するためには、サプライチェーンに参加する外部企業に対して、新しいシステムへの参加をお願いしなければなりません。参加をお願いするためには、それぞれの現場でスムーズに移行し運用できるシステムやアプリの開発も必要です。特に現在問題なく稼働しているシステムからの移行は、ハードルが高いと思われます。
セキュリティ対策がやはり必要
ブロックチェーン技術を使っても、データ改ざんを100%防げるわけではありません。既存の中央サーバー型のデータシステムと同様に、セキュリティ対策は継続して必要です。
現場管理と社員教育
データの改ざんが難しいとはいっても、入力されるデータがもともと間違っていれば意味がありません。マレーシアやインドネシアのようなムスリムが多数を占める市場であっても、現代のグローバル化された大量生産型の食品生産現場では、ムスリムでない企業が生産を行う事も少なくありません。また、ムスリムの従業員であっても、コンタミネーションを防ぐオペレーションに対する適切な知見を持っているとは限りません。
そのため、不正データを入力させないための運用手順の開発、日々のオペレーションの監査実施、ハラールなオペレーションを行うための社員教育等が必要となります。
日本企業が取り組む場合の注意点
ハラール産業へのブロックチェーン技術の実装においては、ムスリム消費者への配慮が強く求められます。なぜなら、実装の目的は、かれらの日々の宗教的実践であるハラールな物を消費したいという需要に基づくものだからです。
そのため、日本企業が取り組む場合には、この点を十分に理解しなければなりません。また、現地ムスリムパートナー等の当事者からの助言や協力を、十分に得ることをお勧めします。
参考
今さら聞けない「ブロックチェーン」とは何か?~その基本的なメカニズムと進化の方向を探る
How will blockchain impact halal supply chain?
Groovy Japan運営会社のマレーシア法人JL Connect (M) SDN BHDのディレクターと、JAKIM戦略パートナー企業のコンサルタントを兼務。
2010年に日本果物のドバイ輸出事業に参画したことからイスラム市場との係わりが始まり、その後マレーシアとインドネシアを起点に現地企業家との事業を行う。訪日ムスリムツアー企画と現地営業、日本と東南アジア間でのビジネスマッチングやマーケティング等を経験する。
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