ハラールカップ麺で日本に食の多様性を広めたい/Grit Capital
日本におけるフードバリアフリーの普及に尽力しているGrit Capital社が、ハラールカップラーメン「Freedom Ramen」の販売を開始しました。シンガポールに拠点を置き、不動産投資をメイン事業とする同社が、カップ麺開発に至った経緯や、ダイバーシティ実現への思いについて、田中良尚 代表にお話をうかがいました。
私には「食とエンターテイメントで世界を平和にしたい」という思いがあります。食は生きる上での原点ですから、文化や価値観が異なる人同士でも、共に食事をすることで、仲良くなれるもの。多文化共生に繋げるために、日本で食の多様性を広げていきたいと考えています。
弊社は不動産投資がメイン事業。その一環で、カンボジアでカシューナッツ農園を運営しております。農園経営とカップラーメン開発に、関連性が見出しづらいかもしれませんが、実は「食の多様性」という点で繋がっています。
カシューナッツからはミルク、チーズ、バターやクリームソースなどの代替乳製品を作ることができるため、農園で収穫されたナッツを使い、プラントベースフードの新商品開発に力を入れています。
もともとフランス領だったこともあり、カンボジアの農作物はクオリティが非常に高い。しかし搾取が起こり、正当な対価を得られていない状況があります。
弊社がダイレクトに消費国へ輸出することにより、サステナブルに農園で働く従業員たちの生活レベルを上げることができますし、おいしい農作物を日本や世界の人々へ届けることができることに面白みを感じているところです。
2013年~2017年にかけて、私は不動産開発企業で、マレーシアで新たに開発されるアウトレットモールの飲食店誘致の責任者を担当していました。
日本の商業施設では、ネームバリューやトレンドなどを基準に、客層に合わせたラインナップを揃えるのが一般的なテナント誘致方法です。
しかし、マレーシアのハラール料理店にアプローチをした際、「豚肉を使うような店の隣に出店するなどあり得ない」と言われ、唖然としました。マレーシアにおいて、ハラールであるか否かが非常に重要な食の要素であり、細やかに配慮する必要性があることを、お恥ずかしながら、当時開発チームにいたメンバーは誰も知りませんでした。
そこで、飲食事業を営む方々に教えを請い、一から現地の食文化を学ぶことにしたのです。
マレーシアにおいては、まずハラールやベジタリアンに対応した店の割合を決める必要がありました。当たり前に根付いている多様性に配慮した文化を知り、驚くとともに、日本における食のおもてなしついて危機感を抱きました。
日本はフードダイバーシティの土壌が全く育っていないにもかかわらず、2019年にはラグビーワールドカップ、2022年にはオリンピックの開催を控え、インバウンドに力を入れようとしていました。
当時日本にはハラール料理もほとんどなく、食への対応を怠ったままで、海外から多くの人が訪れたら、世界から非難されてしまう…。この状況を打開しなければならないという焦燥感に駆られ、2017年に起業。食に関連するビジネスを始動しました。
起業して最初に手掛けたのは、マレーシア産冷凍ハラール料理の日本への輸出です。日本の食材をマレーシアで紹介していたキュアテックスという日本企業と協業したプロジェクトです。
当時の日本では、ほとんどのホテルにハラール対応キッチンもなければ、ハラール料理が作れるシェフもいませんでした。しかし、マレーシアのハラールキッチンで作った料理を冷凍庫に保存しておくことで、多くのホテルがハラール料理を提供できるようになります。
マレーシアのバンギホテルには、大規模なハラールセントラルキッチンがあります。ラマダン中は毎夜宴会が行われるため、ホテル業界は繁忙期。その時期は人件費も原材料費も高騰するので、閑散期に料理を作って冷凍保存することで、コストを下げていました。
出来立ての料理を急速冷凍すれば、保存料なしで長期保存ができます。それを湯煎するだけでビュッフェ料理がいつでも提供できるので、売れ行きの良い料理を補充するだけで済みます。結果的にはフードロスを減らすことにも繋がります。
キッチンはハラール認証も取得しており、長年の経験からムスリムが好む料理の傾向も分かっていますから、この料理をまるごと日本に持ち込もうと考えました。
最初は、マレーシアのキッチンで作った料理をそのまま冷凍して日本に輸出しようと試みました。しかし、肉を含む食品は、日本の検疫が通りにくい。半年以上経っても通過できなかったので、肉を除いたソースのみをマレーシアで作り、日本でハラールチキンやハラールビーフ、魚を加えて商品を完成させることにしました。
その後、2018年に熊本でハラールセントラルキッチンを始動させ、ハラール料理をホテルや飲食店などで提供する枠組みを完成させました。
ハラール対応の必要性を理解している企業では導入が進んだものの、冷凍庫に保管スペースを取られることに難色を示されることもしばしばありました。
そこで、もっと広く一般にハラールを普及させるためには、簡単に調理ができ、それなりに安価で、常温保存できるものが必要だと考えました。
ムスリムの知人が日本へ旅行に行く際、「日本では食べられるものがなくても、カップ麺さえ持っていけば大丈夫」と話してくれたことをヒントに、「ハラール日本食」をコンセプトとしたカップラーメンの開発を思いついたのです。
現在、シンガポールには、日本を訪れたいと思っている人がたくさんいます。日本の国境が開かれたら、アジアから多くの人が日本に向かうはずです。しかし日本では、インバウンド需要が完全に止まった状態が続いており、ハラール対策を始めていたものの、すでに撤退してしまった企業も多い。全国でハラール食が不足していることは明らかです。
コロナ禍はまだ続いていますが、インバウンド再開時に最低限の対応を間に合わせたいと考え、2019年には完成させていた「Freedom Ramen」を、2021年末納品に合わせて発注し、製造に踏み切りました。ハラール、ベジタリアン、ヴィーガンに対応しており、現在は日本とマレーシアで販売を開始しています。さらに、ムスリムやベジタリアンが多い国に販路拡大を計画しています。
日本に留学してきて食事に苦労していた友人がいた経験などから、身近にいた「ムスリムの役に立ちたい」という思いも、Freedom Ramenには込められています。
ムスリムの友人からは、「この値段でこの味のカップ麺が食べられるなんて、最高だ!」と太鼓判を押してもらいました。
旅行やアウトドアなどでの携帯性、災害備蓄としての機能性を考えて、袋麺ではなくカップ麺にしました。
イスラム教徒の方も、非常事態であればハラール対応でない食事を食べることが許されているでしょう。しかし、日本にいるムスリムやベジタリアン、ヴィーガンといった、食のマイノリティの方々が災害時に食べられるものを用意していることはとても大切です。食の多様性に配慮した災害備蓄食として、Freedom Ramenを全国の自治体に広めていきたいと考えています。
私は、日本の加工食品がハラール認証を取得する際に、国内製造にこだわる必要はないと考えており、Freedom Ramenはシンガポールで植物性のカップラーメンを作っている工場で製造しました。
商品を試食した在日ムスリムは、シンガポールのハラールマークにも安心感を覚えてくれたようです。海外から日本に来たムスリムは、日本のローカルハラール認証に馴染みがありませんから…。
海外ではハラール対応している工場が多く、ハラール原料も揃っています。ASEAN域内であれば関税もかかりませんから、現地での販売価格を低く抑えることもできます。
海外進出を考えている日本企業の方に、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
ハラール対応を始めようとしている企業は、最初は何をしていいのか分からず、手探り状態だと思います。しかし、カップラーメン1つでも目の前にあれば、改善点や新たな商品のアイデアなどが出てきます。Freedom Ramenがきっかけになって、新たなハラール商品が世に次々と出てくることを願っています。
また、商品を目にした人々が、ハラールについて話したり、食の多様性に興味を持ったりしてほしいと考えています。
弊社が拠点を構えているシンガポールは、フードダイバーシティの先進国です。天然資源が乏しい小さな国ですから、国家の経済発展のため、世界中から人材を集めています。食のストレスはリスクになるため、優秀な人材を各国から集めるため、食の多様性に国を挙げて対応しているのです。
日本も資源に乏しい国ですが、今からITなどに力を入れても、世界に対抗するのは難しいと感じます。
しかし、日本には「日本食」という長い歴史を持った食文化があります。
早い段階で日本が食の多様性について理解し、全世界の25%を占める巨大なマーケットであるハラール市場、さらにベジタリアン、ヴィーガンに対応し、世界からの評価を得る努力をすれば、経済力の底上げにおいて一翼を担うことができるはずです。
日本は四季があり、多種多様で豊かな食文化の根付いた国です。日本人シェフは、世界的に見ても非常にレベルが高いことで知られています。各国の料理に、日本の優秀なシェフが四季を取り入れ、日本の食材を用い、フードダイバーシティのコンセプトを考慮した商品を海外へ展開させる。今後は、そういった事業を展開していきたいと考えています。
また、日本にハラール食を広めていくため、ハラールについて意見を交わすコミュニティを作りたいと考えています。ムスリムの方の意見を聞くことができ、企業はその声を聞くことで開発リスクを減らすことができる。コミュニティの輪を広げ、食の多様性への対応を加速させていきたいですね。
<企業概要>
事業者名: Grit Capital Pte Ltd
本社所在地:2 KALLANG AVENUE, #07-25, CT HUB, Singapore 339407
事業内容:不動産関連事業、インバウンド・アウトバウンド事業
公式オンラインサイト:FREEDOM RAMEN Cashew++
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