グローバルハラール食品市場 4つの最新トレンド
Groovy Japanを運営するジェイ・ラインのマレーシア法人JL Connect Malaysiaでイスラム市場進出支援に携わっている橋本です。
6月30日のコラムでは、グローバルハラール市場の最新状況についてご紹介しました。その中でもハラール食品市場は、最も大きな比重を占めています。現在でも多くの日本企業がグローバルハラール市場で活躍していますが、その多くも食品関連です。今回のコラムでは、グローバルハラール食品市場に焦点をあて、今後の可能性について検討しましょう。
パンデミックでも拡大するハラール食品市場
世界のムスリム人口は拡大を続けています。2030年には22億人(26.4%)、2050年には27億人に達すると予測されています。既に世界市場は、四人に一人がイスラム教徒の時代になりつつあります。イスラム諸国の多くが、人口が増加しているだけでなく経済開発を進めています。それに伴って中間層が拡大し、有望市場として注目されるようになりました。
この中で最も注目されているのが、ハラール食品市場です。その市場規模は、2019年度で約129兆4,600億円(約1.17兆ドル)に達しました。2018年度と比較した成長率は、約3.1%です。
ハラール市場への食料供給国
主なハラール市場向け食糧輸出国
輸出国 | 輸出額 | 主な輸出先 | ||
ブラジル | 約1兆7,890億円 (162億米ドル) | サウジアラビア | エジプト | イラク |
インド | 約1兆5,910億円 (144億米ドル) | サウジアラビア | UAE | イラン |
米国 | 約1兆5,278億円 (138億米ドル) | サウジアラビア | エジプト | インドネシア |
ロシア | 約1兆3,150億円 (119億米ドル) | 中央アジア諸国 | エジプト | トルコ |
アルゼンチン | 約1兆1,270億円 (102億米ドル) | アルジェリア | エジプト | インドネシア |
世界最大のハラール市場向け食糧輸出国は、国を挙げてハラールチキン生産に取り組んできたブラジルです。日本に輸入されているブラジルチキンも、全てハラール認証を取得しているようです。日本では、和牛や抹茶等の高付加価値食品のハラール市場向け輸出が注目されていますが、市場全体でみると、世界最大の農産物輸出国であるアメリカや中東に近いインド等の存在が、非常に大きい事がわかります。
ハラール市場の食料輸入国
主なハラール市場向け食糧輸入国
輸入国 | 人口 | GDP (一人当たり) | 輸入額 |
インドネシア | 2億6,691万人 | 4,038米ドル | 約15兆9,120億円 (1,440億米ドル) |
バングラディシュ | 1億6,555万人 | 1,906米ドル | 約11兆8,235億円 (1,070億米ドル) |
エジプト | 9,985万人 | 3,047米ドル | 約10兆4,975億円 (950億米ドル) |
ナイジェリア | 1億9,388万人 | 2,222米ドル | 約9兆1,715億円 (830億米ドル) |
パキスタン | 2億774万人 | 1,388米ドル | 約9兆610億円 (820億米ドル) |
ハラール市場の食料輸入国には、インドネシアをはじめとした人口が一億を超える国が上位を占めています。一方で、一人当たりGDPについては、まだあまり高くありません。ハラール関連のカンファレンスでは食料安全保障(フードセキュリティ)が良く話題になるのですが、この統計データからその背景が理解できます。パンデミックにおける国際貿易の混乱は、これらの食糧輸入国に非常に大きな懸念を生んだと考えられます。
ハラール食品市場の最新トレンド
人口増加と経済成長を背景に成長を続けいるハラール食品市場ですが、2019年から始まったパンデミックでは、日本市場と同じように大きな影響を受けました。その結果、市場環境に適応した新たなトレンドがうまれています。
1.地元回帰
既に検討したように、巨大な人口を抱えるイスラム諸国は、食料を輸入に頼っています。今回のパンデミックによる国際貿易の混乱から、安定した食料確保についての不安が高まりました。その結果、地元(国内)での農業生産や食品加工に、投資が集まっています。
2.外食から内食へ
パンデミック阻止の外出制限による外食機会の減少や収入減等から、自宅での食事機会が増加しました。それを受けて、フードデリバリーサービスの急拡大、クラウドキッチン等の新しいサービスの登場、調理済食品への需要が高まる等、新しい食に関するトレンドがうまれています。
3.DX(デジタルトランスフォーメーション)
ハラール食品産業分野におけるDXは、パンデミック以前から進展していました。今回のパンデミックによる混乱から、その動きがさらに加速しています。グローバルサプライチェーンの見直し、製造自動化等による効率化とコスト削減、トレーサビリティシステム構築等のDXプロジェクトが、注目されています。
4.食品安全性やハラール性への意識向上
イスラム諸国の経済成長等により、ハラール市場の中間層が拡大しています。その結果、より健康的で安全な食品やハラールと確信できる食品への需要が、高まっています。この消費者の嗜好の変化は、トレーサビリティシステムのDX化の推進材料ともなっています。
東南アジアハラール食品市場がイノベーションをリード
このようなハラール食品市場の最新トレンドに伴って、ハラール産業のDX化や新しい消費者の嗜好に合わせた商品開発等に対する投資資金が、東南アジアハラール市場に向かっています。
主なハラール食品産業への投資額
国 | 投資額 |
マレーシア | 約1,762億円(16億米ドル) |
インドネシア | 約1,101億円(10億米ドル) |
UAE | 約881億円(8億米ドル) |
グローバルハラール食品市場をリードするマレーシア
マレーシアは、世界初のハラール認証制度開発を進め、早くから工業生産を奨励してきました。その結果、世界のハラール産業のベンチマークとなっています。世界最大のハラール食品製造企業であるNestleは、ハラール製品部門の中心をクアラルンプールに本社を置いています。日本ではあまり知られていませんが、マレーシアは、サウジアラビアやイランと並ぶイスラム金融大国でもあります。このようなことから、ハラール食品産業への投資が、マレーシアに集まっています。
市場規模で台頭するインドネシア
世界最大のイスラム教徒人口を抱えるインドネシアでは、市場規模を背景とした経済開発が進展しています。ハラール産業分野においては、2014年のハラール製品保証法による認証制度の効率化やGoFood の急成長等の市場のDXも進展しています。
グローバルハラール市場での日本企業のビジネスチャンス
既に述べたように、最近のハラール食品産業には四つのトレンドがあります。この中でも、食品安全性とハラール性の向上に関係する分野に、日本企業のビジネスチャンスがありそうです。
食品安全性やハラール性の向上
ハラール産業分野では、日本企業の品質管理や技術開発力が注目されています。安全性やハラール性を担保した高付加価値ハラール食品の開発と製造には、日本企業が今まで培ってきた経験を活かせそうです。欧米企業と比較して東南アジアハラール市場と食文化や使用原材料が近い事も、日本企業の強みと言えるでしょう。
一方で、グローバルサプライチェーンの再編やDX化には、参入が難しいように感じます。ここ分野のプロジェクトへの参入では、関係国での商習慣、社会環境、言語等への知見が重要なポイントとなります。実際にマレーシアやインドネシアで日本企業と現地企業のビジネスを見ていると、海外ビジネス展開や多国間ビジネス構築の経験が豊富な欧米企業や地元の強みがある現地企業の方が、有利と思われます。この分野への参入では、現地企業といかに連携するが肝となるのではないでしょうか。
パンデミック後のムスリムインバウンド
2020年の東京オリンピックが一年延期された結果、約3,314億円(30億米ドル)のハラール産業関連の需要が失われたと予測されています。今回のパンデミックによって、日本のハラール産業は大きな機会を失ったと言えるでしょう。一方で、パンデミック後の日本への旅行需要は、アジア諸国では非常に高いです。そのため、マレーシアやインドネシアからのムスリムインバウンドの復活と伸長にも、次のビジネスチャンスが期待されます。
参考
Global Islamic Economy Report 2020
JETRO
新型コロナウイルスによる外国人旅行者の海外旅行意向に及ぼす影響と今後の展望
Groovy Japan運営会社のマレーシア法人JL Connect (M) SDN BHDのディレクターと、JAKIM戦略パートナー企業のコンサルタントを兼務。
2010年に日本果物のドバイ輸出事業に参画したことからイスラム市場との係わりが始まり、その後マレーシアとインドネシアを起点に現地企業家との事業を行う。訪日ムスリムツアー企画と現地営業、日本と東南アジア間でのビジネスマッチングやマーケティング等を経験する。
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