神戸の豆菓子老舗 有馬芳香堂マレーシア法人Arima Food Lab社長 有馬幹人氏
老舗豆菓子店「有馬芳香堂」がマレーシアに進出し、ハラール認証を取得した商品を販売していると聞き、現地法人の有馬幹人社長にお話を伺いました。
老舗企業がハラール市場を目指した目的とは?
有馬社長は有馬芳香堂の4代目。現在は有馬芳香堂のマレーシア法人「Arima Food Lab(アリマ・フード・ラボ)」の取締役社長として活躍されています。
有馬芳香堂は2021年に創業100年を迎える神戸の老舗豆菓子店。信頼関係を築いた生産者のみから良質な豆を仕入れ、鮮度を徹底管理するなど、品質にこだわった豆菓子を作り続けています。
“まじめで頑固な豆屋”と自らを評する有馬芳香堂が、ハラール認証を取得し、マレーシアに進出した理由などを、有馬社長にインタビューさせていただきました。
■老舗豆菓子店がハラール認証を取得した理由
有馬芳香堂には、現在8種のハラール認証取得商品があり、今後は有馬芳香堂の工場で製造する商品全てについてハラール認証を取得予定です。ハラール認証を取得したきっかけは、2年間ロンドンに留学した高校時代にあります。東南アジア出身の同級生も多く、ムスリムの留学生と触れ合う機会も数多くありました。この時の経験から、食品メーカーの人間として、自社商品をムスリムの方も含めて誰でも食べられるものにしたいと考えるようになりました。
ハラール認証の取得について、ハードルが高いと感じる方も多いのではないかと思いますが、実は大きな苦労はありませんでした。有馬芳香堂の商品は、安全とおいしさを両立させるため、もともと使用する原料を厳選していたことが、ハラール認証取得にあたって優位に働きました。例えば、原材料がシンプルなお茶やかつお節などは、ハラール認証を取りやすいと思います。
保存性を高めると味と品質に影響が懸念されるため、有馬芳香堂の商品は賞味期限を7か月~1年と設定しています。
おいしくて安全な商品をお客様にお届けしなくては意味がないと考えていますから、できるだけ保存料は加えず、賞味期限内で販売するための方法を試行錯誤していくと同時に、保存性を向上できる包装資材の見直しも進めています。
■海外展開の意外な理由
日本人独特の傾向かと思いますが、国内での店頭販売で「歯が悪いので硬いものが食べられない」と言う声を年配の方から聞く機会がここ数年多くなったと感じます。例えば、アーモンドが硬くて噛めなかったり、若い方は豆菓子よりも、柔らかくて噛みやすいスナック菓子を好む傾向があると感じます。有馬芳香堂の商品は特に硬い方ではないのですが、海外での試食販売では年配の方でも問題ない方が多い事からも海外展開を意識するようになりました。
2019年、海外に拠点を持つという社命を背負い、私はマレーシアに家族で移住しました。マレーシアを選んだ理由は複数あります。市場規模や物価、今後の発展性といった経済面の魅力と、ムスリムの方たちにも有馬芳香堂の商品を食べてもらいたいという希望を叶えることができること、この2つをクリアできる国がマレーシアでした。
マレーシアに拠点を構えることが決まってから実際に移住するまでは約半年。まず、パートナーとなる商社を探すことから準備を始めました。日本の商社も数社連絡を取りましたが、商談会で接点を持つことができた現地の商社をパートナーに選びました。過去にマレーシアに展開した企業の情報を調べて販路の見込みを作り、マレーシアに向かいました。
移住したのは2019年12月。翌年3月にはロックダウンがあり、その間はパートナーとなる現地の商社と連絡が取れず、マレーシアにいながらも思うように行動できませんでした。徐々に現地の経済活動も動き始め、パートナー企業との連絡も復活し、移住してから1年後の2020年12月、マレーシアでの販売が開始しました。
実は、海外事業を始めた当初は、海外に移住してまで販売するという考えは私の中にはありませんでした。香港へは年に1回催事で行く程度で十分な販路開拓ができましたし、そのような形でほかの国も十分だろうと。海外赴任が決まった際には、行くからには必ず結果を残し、マレーシアでの第一人者になろうと心を決め、家族での移住を決めました。
マレーシアに住んだ結果、出張程度のケアで十分、という考えは完全に変わりました。移住したからこそできること、それが今後のマレーシア事業での中心軸になる可能性が見えて来ました。
■現地マレーシアにいるからこそ見えてきたもの
私はマレーシアに住む期間を 4~5年と決めていて、この間に店頭販売を100回行うことを目標にしています。せっかく現地にいるのだから、店頭に立ってお客様の声を拾い、現地の方の好みや市場の動向、棚の動き、全てを吸収したいと考えています。
店頭に立つ日々の中、日本から輸入されてきている商品を見て悔しく思う事があります。例えば、海外で販売する商品なのに、日本語だけで書かれたパッケージのものが多いのです。パッケージを見てどんな商品なのか想像ができないので、現地の方が正しく店頭に並べることも、お客様に購入していただくのも難しい。また、日本では日常使いするために大容量で売られている醤油なども、現地では普段とは違う海外の味として購入するので、小容量でなければ購入しづらい。
日本での販売ならば、お客様の声を聴いてベストな商品を作るはずなのに、なぜか越境するとその基本から外れる事が多くなってしまう。優れた商品であればあるほど、パッケージやサイズなどを現地に合わせれば売れるはずなのにと、もどかしく思っていました。
店を見ずに、棚を見ずに、お客様の声を聴かずに、「商品が売れない」と撤退していく多くの日本企業がある現状を打破するにはどうしたらいいか。海外展開して成功・失敗した企業の経験が蓄積されていないのも問題です。全ての企業がマレーシアに社員を赴任させることは難しいでしょう。
そこで、マレーシアに進出する企業の手助けをすることが、アリマ・フード・ラボの事業として成立するのではないかと考えました。吸収した知識を活かし、今後は日本企業から「マレーシアで売るならアリマに聞け」、小売店から「日本のハラール商品ならアリマに聞け」と言われる存在を目指したいと思い、学びの日々を送っています。
海外展開する上では、単発の催事イベントへの出品では効果が薄く、とにかく継続して販売するという事が重要だと思います。日本企業のマレーシア進出を、アリマ・フード・ラボが支援することで広めていきたいと思っています。
■アリマ・フード・ラボが目指すもの
日本企業はハラール認証を取るだけで終わってしまうケースがとても多いですね。現在マレーシアの店頭に立っていて、ハラール認証を取っている日本のお菓子を見る機会がないことが、とても残念です。
日本の優れたハラール食が、実際にマレーシアの店頭に並ぶまでの手助けをしたい。しかし、マレーシアで日本食を扱う小売店も、日本のお菓子を置く棚も現状では限られています。有馬芳香堂の商品が1つ増えれば、他の商品が棚から外されるという現実もあります。
目指すのは、これまで誰もしてこなかったこと。既存の日本食、ハラール食というカテゴリーではなく、複数企業の商品を取り揃え、「日本のハラール食」として売り出すことを考えています。日本企業の商品全体の売り上げを伸ばしたいので、既存の日本食コーナー以外に展開する仕掛けも考えています。「日本のハラール食」という独立した一画を、ムスリムの方々の目につく場所に大きく展開できたらうれしいですね。
そのためにも、ブランド価値を上げられる商品を見つける必要があります。単に有名な商品というだけでは、価格競争に巻き込まれてしまう可能性がありますので、高品質でありながら他での取り扱いがない商品。マレーシアでの販売は、そんな魅力的な商品と協力して進めたいと考えていて、現在、いくつかのメーカーに声がけを始めています。
マレーシアでは、商品仕入れから店頭の商品陳列まで含めて問屋が請け負っていることが多いです。企業は商品を問屋に卸すのみになってしまい、細かな商品の魅力を消費者まで届けることが難しい。
しかし、アリマ・フード・ラボは、メーカーの想いをお客様に届ける形での展開を目指します。他社の魅力的な商品を見つけて売り出す、という将来設計はまるで商社のような考えかもしれませんが、あくまでメーカー目線で販売をしていきたいですね。
優れた商品の魅力を店頭でお客様にお伝えし、お客様の声をメーカーにフィードバックする。これまで有馬芳香堂が行ってきた営業方法を、他社の商品も含めた「日本のハラール食」について行っていきたいと思います。
今後も、日本の優れたハラール食を、マレーシアのムスリムの方々に、メーカー目線で届けていきたいですね。
・有馬芳香堂 英語サイト
・Instagram Arima Malaysia
・Arima Malaysia LAZADA店
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